「老後資金2000万円問題」は簡単に言えば、「老後資金は年金だけでは足りないので夫婦で2000万円は貯蓄が必要という試算がありますよ」という話です。
正直、この試算が正しいのか正しくないのかと言えば、試算の中の一部が取り上げられているだけという気もしますし、今後の経済状況次第では大きく変わる可能性も高いために、内容を詳しく調べる気すらありません。
ただ、2000万円問題として世間で取り上げられているので、今回は2000万円を貯めるにはどうすれば良いのかを、投資家視点で試算してみました。
老後資金2000万円を貯める条件
まず、この老後2000万円問題の条件として次のことを設定します。
一言に老後資金と言っても、対象となる人の年齢や環境によっても様々な条件が考えられます。
そこで今回は、30歳の一般的な社会人が60歳までの30年間かけて老後資金を積み立てる方法として考えることにします。
30歳から定額を貯金して老後に2000万円を貯める場合
毎月、決まった額を貯金して2000万円を貯める場合には、毎月いくらの貯金が必要になるでしょうか?貯金の場合には、銀行の利息は0と言って良いレベルですから無視します。
毎月貯金する額をN(円)とすれば計算式は以下のようになります。
つまり、毎月5万6千円を貯金すれば、65歳には2000万円が貯まりますね。
この毎月の貯金額を多いと考えるか、少ないと考えるかは、その人の収入によると思います。この時点で結婚していて、共働きなら難しくない額かもしれません。
しかし、30歳から結婚資金や子育て資金も同時に貯めることを考えると少し厳しいと感じる人も多いのではないでしょうか。
35歳から株式投資で老後に2000万円を貯める場合
では、貯金ではなく株式投資で老後資金2000万円を貯める場合はどうでしょうか?こちらは、私の投資経験と実際の投資環境を基に考えてみたいと思います。
投資の場合には、年に1,2回の配当金や株主優待による利回りと、株価の変動による売買譲渡損益が発生します。
まずは、株価の変動による損益は無視して考えてみましょう。
配当金の利回りは?
貯蓄と違う点は、株式投資では投資した金額に応じて配当金が貰えることです。
配当金の額は上場する企業の中でもピンキリで、全く実施していない企業もあれば、JTのように5%を超える企業もあります。
どこに照準を合わせるかによっても、得られる結果は全く違いますが、東証1部の2019年5月の単純平均利回りが2.04%なので、大体それくらいが一般的な上場企業の配当金の利回りだと考えてください。
参考サイト:その他統計資料 | 日本取引所グループ
ただ、老後資金を目的とした投資なので、配当利回りが比較的高めの企業を投資対象として、配当利回り3%以上の企業に絞って投資をしようと思います。
そうすると、上場企業全体では、2019年7月現在では957社が投資対象となります。
参考サイト:ヤフーファイナンス
配当利回り3%で30年の積み立て運用
ということで、配当利回り3%で30年間、積立運用するとどうなるでしょうか?
積み立て額が月2万円の場合
もし毎月2万円(年間24万円)を積み立てて運用した場合には次のようになります。
参考サイト:資産運用シミュレーション : 金融庁
30歳から月に2万円で運用した場合には、1,165万円貯まることがわかりました。
普通に貯金した場合には、「2万円×12カ月×30年」で720万円しか貯まらないことを考えると、400万円近く多く貯められる計算になりますね。
2000万円積み立てるのに必要な毎月の金額
では、2000万円貯めるには毎月いくら積み立てたら良いでしょうか?
毎月3.5万円積み立てれば、30年間で約2000万円積み立てられることがわかりました。
普通に貯金すれば5.6万円必要になるわけですから、貯金から資産運用に変えるだけで毎月約2万円も安くなります。これが株式投資による資産運用です。
老後資金2000万円を貯める試算のまとめ
ここで一旦、これらの試算をまとめてみましょう。
積み立て比較 | 貯金 | 投資(3%) | 投資(3%) |
---|---|---|---|
毎月の積立 | 5.6万円 | 2万円 | 3.5万円 |
30年後 | 2000万円 | 1160万円 | 2000万円 |
配当金だけで考えた場合には、通常の貯金よりも2万円程安い3.5万円の積み立てで、老後に2000万円の資金を貯めることが可能になりました。
というのは、ちょっと短絡的です。
ここからは、個人投資家としてさらに深く投資による老後資金計画について考えたいと思います。
既に株式投資をされている人なら気づくと思いますが、この試算には2つの重要な要素が抜けています。
株式投資の税金
株式投資の税金は、配当金でも売買譲渡益でも同様に、一律で20.315%(2019年現在)が課税されます。
つまり、配当金を年間に1万円貰えるとしたら、約2千円が税金として引かれることになります。
上の試算例では、株式投資にかかる税金については一切考慮していません。もちろん忘れていたわけではありません。
試算で税金を考慮しなかったのは、「つみたてNISA」という非課税制度があるからです。
つみたてNISAでは、年間に40万円までの投資による配当金や譲渡益に対してかかる税金が20年間非課税になる制度です。
つまり、月に3.5万円の積み立てであれば年間に42万円になるので、ほぼ非課税になるからです。
つまり、3%の配当金にかかる税金はほとんどかかりません。
この制度は20年の有効期限ですが、政府が投資を促している以上は、今後も同じような制度によって、減税や免税措置が取られるというのが、私が税金を考慮しなかった理由です。
株価の変動による売買譲渡損益
次に、株価の変動について考えてみましょう。上の試算では、株価の変動による損益は考慮していません。
もし株価が下落すれば、積み立てた資産が減少することになります。「投資=リスクがある」というのは間違いありませんが、今回の試算で資産の減少を考慮しなかったのには理由があります。
割安株の長期分散投資は株価が下落するリスクが低い
その理由とは、単純に割安株の長期分散投資では株価の値下がりリスクよりも値上がり期待の方が高くなるからです。
割安株とは、現在の業績の割に株価が安い水準にある株の事を指します。
株価には、大きく2つの要素が織り込まれています。一つは、「現在の業績や財務」、もう一つは「成長性」です。
この2つのうち「成長性」は株価の先高感に強く影響するため、成長性の高い会社の株は割高になるという特徴があります。投資用語でいえばPERやPBRが高いということですね。


対して、業績が安定しており成長性が高くない企業の株は割安で配当利回りが高い特徴があります。
つまり元々割安な企業の株が、安定した業績を続けていれば、30年先までに一辺倒に株価が著しく下落する可能性は極めて低くなるということです。
老後資金を作る長期投資は株高も期待できる
もちろん、30年の超長期投資ですから、全ての株の下落リスクがないわけではありません。
しかし、分散投資で特定株の影響を受けにくいように工夫すれば、総合的には株価の上昇が見込まれるというのが割安株の長期投資のメリットでもあります。
また、株式投資の特徴として、以下のようなものがあります。
例えば、10数社の株を均等な金額で保有していたとして、1つの会社が倒産し株価が0となったとしましょう。
しかし、逆に1つの会社が業績を維持し続けて、株価が3倍になったとすれば、倒産した企業の株の損失を補うばかりか、さらにもう1社分の資産を手に入れることになります。
本当の結論:株式投資で老後資金2000万円を貯める試算
ということで、私の考える本当の結論としては以下の通りです。
株式投資なら月2万円の積み立てで老後資金2000万円を貯めることが可能
全くの無知では厳しいかもしれませんが、常識的な範囲内での投資の勉強ができる人であれば、おそらく月に2万円の積み立てだけで、老後資金2000万円は貯まるんじゃないかなと考えています。
上の試算のように、配当金だけで考えても1160万円ですから、株価の上昇による売買譲渡益で残りの840万円を稼げば良いだけです。
PER10倍程度の安定した企業であれば、30年あれば株価が倍になる事くらいは十分に考えられるのではないでしょうか。
30年経たずとも、10年で株価が倍になったとしたら売却し、次により割安な銘柄に再投資するのも良いでしょう。
そう考えると、30年あれば2000万円積み立てるのは、意外と簡単ではないでしょうか。ちなみにこれは夫婦二人分の老後に必要な金額としての試算です。
資産運用と貯蓄は30年あれば大きな違いになる
「日本人=貯蓄」という文化ですから、資産運用の考え方は馴染みがないかもしれません。
しかし、現に今現在の景気や年金などの環境を考えると、リスクを最小限に抑えつつ資産を運用する必要に迫られているのが日本の現状です。
特に若い世代ほど、この現実がハッキリとしているので、やってられないと自暴自棄になりたくもなります。
ただし、現実的に今は若い人にも老後がやってきて、その時に嘆いても誰も助けてくれません。
自分にとっては30年先のことであっても、今から資産運用を考えることで老後の生活に大きな違いを生むことになるでしょう。
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