信用取引の最大の特徴は、持っていない株を売ることが出来る「空売り」です。投資初心者にとっては、イマイチこの空売りの仕組みがわからない人も多いのではないでしょうか。
今回はそんな空売りの特徴や注意点をわかりやすく解説します。
空売りとは?
空売りは、保有していない株を売ることが出来る株の信用取引の売買システムです。
例えば、A社の株価が高いと感じている時に、A社の株を安い時に買っておけば良かったと思う事はありませんか?
空売りは、高いと思った株を先に売る事によって、後から安くなった際に買い戻すことが出来る信用取引の制度です。
信用取引では、現金や有価証券(株式や投資信託など)を担保にして以下の二つのことが可能になります。
買い建ては、担保をもとに担保以上の資金を借りて株を買うわけですから、わかりやすい仕組みだと思います。
しかし、売り建ての株券を借りて株を売る空売りというのは、どういう仕組みでしょうか?
制度信用取引の空売りの仕組み
制度信用取引とは、証券取引所によって対象銘柄やルールが定められた信用取引のことを言います。
制度信用取引で「買い建て」と「売り建て(空売り)」の両方が出来る銘柄を「貸借銘柄」とよび、「買い建て」のみ行える銘柄を「制度信用銘柄」とよびます。
制度信用取引の空売りの仕組みは、図解にすると次のようなイメージです。
流れとしては次のようになります。
この①から⑤の流れは実際には一瞬で行われます。そのため投資家にとっては、普通の買付注文と同じように、空売り注文の発注が可能です。
この流れの中で、「日本証券金融」という、あまり聞きなれない会社名が出てきましたね。少しだけ日本証券金融について説明しましょう。
日本証券金融とは?
日本証券金融とは、日証金とも呼ばれ、証券会社に株券やお金を貸す業務を行っている会社です。この株券やお金を貸す業務を「貸借取引」と呼びます。
つまり、空売りの際に必要になる株式の調達もその業務の一つというわけですね。制度信用取引では、日本証券金融を通じて証券会社は顧客である投資家に空売りのための株式を調達しているのです。
ちなみに日本証券金融はその株式を保有する投資家(主に機関投資家)から借りています。
逆日歩とは?
制度信用取引では日本証券金融が、空売りのための株式を調達し、証券会社を通じて空売りしたい投資家に貸し出されます。
逆日歩は、空売りする株が不足した場合に売り方が支払う品貸料のことです。つまり投資家が「空売りする株(品)」を「借りていること(貸)」にかかる料金です。
逆日歩の流れとイメージ
特定の株の売買が活況になり、信用取引による売買が増加し、信用売り残高が信用買い残高を上回る状態が続くと、日本証券金融でも株不足の状態になります。
こうなった場合には、日本証券金融は株式の調達のために、生命保険会社や損害保険会社などの機関投資家から現物株を調達して株不足の解消に努めます。
その際には、機関投資家からの「入札」による株式の貸し出しが行われ、そのコストが逆日歩(品貸料)という形で空売りしたい投資家の負担となります。
ちなみに逆日歩は、売り方は支払わなければいけませんが、買い方は逆日歩を受け取ることが出来ます。
ただし、通常は逆日歩自体が発生することも珍しく、発生しても逆日歩はそれほど大きな金額にはなりません。
ただし、ごく稀に例外的に逆日歩が大きくなる場合があるので、空売りをするのであれば、逆日歩については知っておいた方が良いでしょう。(私自身も過去に逆日歩で痛い思いをしました)
逆日歩についての詳細は以下の記事をご覧ください。
一般信用取引の空売りの仕組み
続いて、一般信用取引の空売りの仕組みですが、こちらは証券会社が独自に株式を調達することで成り立っています。
一般信用取引の空売りの流れを図解にすると下のようなイメージになります。
流れとしては次のようになります。
一般信用取引の場合には、日本証券金融を通じず、自社の顧客などから株式を調達して、投資家が空売りできるようにしています。
そのため、調達できる株式の総数は制度信用取引に比べると少なく、空売り出来る銘柄の数もかなり少ないことが一般的です。
証券会社によって空売り出来る銘柄や期間が違う
一般信用取引は証券会社によって独自にルールが設定されている信用取引です。
そのため、空売りできる銘柄も証券会社によって全く違います。また、空売りできる銘柄によっても、その期間や貸株料などが大きく違うため、制度信用取引よりも複雑であることは否めません。
例えば、2019年時点の SBI証券 の場合は、全部で1951銘柄が一般信用取引で空売り可能ですが、銘柄によって一般信用取引でも、空売りできる期間や貸株料は大きく違います。
また、調達できる株式が制度信用取引に比べて、限界があるために銘柄によっても空売りできる株数に制限があります。
SBI証券は一般信用取引の空売りできる銘柄が多い証券会社の一つですが、そのルールはご覧のように制度信用取引と比べると複雑です。
制度信用取引と一般信用取引の空売りの特徴比較
これらのことから、制度信用取引と一般信用取引の空売り時の特徴の違いは以下のようになります。
内容 | 制度信用取引 | 一般信用取引 |
---|---|---|
対象銘柄 | 取引所が選定 | 証券会社が選定 |
返済期限 | 最長6か月 | 1日から無期限(条件により異なる) |
貸株料 | 1%程度 | 0%~数%(条件により異なる) |
逆日歩 | かかる | かからない |
制度信用取引に比べて、一般信用取引は「返済期限」や「貸株料」が条件によって大きく違うことがわかりますね。
特に、一般信用取引での空売りは、返済期限が証券会社や銘柄によって大きく異なることから、空売りする時には利用する証券会社で確認する必要があるでしょう。
制度信用取引と一般信用取引の空売り可能銘柄数
制度信用取引の「貸借銘柄(空売りできる銘柄)」の数は日本証券取引所グループが公表しています。
そのデータによると2018年末では以下のようになっています。
2018年末の貸借銘柄数(期限:6カ月)
一般信用取引では、先ほどのSBI証券の2019年の空売り対象銘柄は以下のようになっています。
銘柄のレパートリーや期間で考えると、一般信用取引よりも制度信用取引の方が使いやすいように感じますね。
空売り規制に注意しよう
また、信用取引の種類に関係なく、空売りにはやってはいけないルールがあります。そのルールとは以下の通りです。
トリガー抵触銘柄とは?
トリガー抵触銘柄とは、前営業日終値等から算出される当日基準価格から、10%以上価格が下落して取引が成立している銘柄のことを指します。
※トリガー抵触銘柄は、翌日の取引終了時点までが規制の適用期間
トリガー抵触銘柄の51単元(5100株)以上の空売り
トリガー抵触銘柄になった株を51単元以上空売りする場合には、次のようなイメージになります。
直近株価がその直前の株価よりも安い場合(下落トレンド)
・直近株価以下での51単元以上の空売りが禁止
直近株価がその直前の株価よりも高い場合(上昇トレンド)
・直近株価未満での51単元以下の空売りが禁止
これについては、マネックス証券のサイトに詳しい解説が掲載されていますので、興味があればご確認ください。
ただ、空売り規制については、5100株以上の空売りをしなければ気にしなくても良いルールです。あまり積極的に空売りをしない人であれば、関係ないと思います。
空売りを有効に使うための心得
空売りは、株の下落でも利益が出すことができるため、投資効率が上がるというメリットもありますが、使い方を誤れば大きな損失につながる恐れもあります。
空売りのリスクを抑えるためのポイントを解説します。
空売りで投資元本以上に損失を出すケース
空売りで一番気を付けたいことは、株価の大幅上昇による損失です。
例えば、株価1000円の株を1000株空売りしていたとします。合計で100万円の空売りですね。
その株価が2000円になれば、買い戻しの金額は200万円となり、「200(買い戻し金額)-100(売り建て金額)=100」で100万円の損失になります。この時点で、投資元本の100万円が無くなりました。
もし株価が3000円になっていたとしたらどうでしょう。買い戻し金額は300万円となり「300-100=200」で200万円の損失になります。
売り建てた金額が100万円なのに対して、損失は200万円です。つまり元本以上に損失を出していることになります。
空売りのリスクを抑えて利用するためには?
空売りのリスクを抑えつつ有効に利用する方法は、下落相場のデイトレードや数日程度の短期投資が良いと個人的には思います。
一日信用取引が手数料無料で売買できる証券会社→松井証券
下落相場では、上昇する銘柄よりも下落する銘柄の方が多いので、空売りする方が利益になる確率が上がることは間違いありません。
※突然のIRニュースなどで株価が吹き上がる可能性も0ではありません。
空売りする時は余裕のある資金で
空売りをする時には、買い建てる時以上に資金に余裕を持たせておくのが良いでしょう。
投資元本を上回る損失は万が一にしか起こりませんが、少なくても可能性が0でない以上は、空売りする資金は余裕のある資金で行う事が大切です。
空売りはあくまで、一時的な売買として行う事がいいと思います。
空売りを利用して株主優待をゲットする
空売りを利用して、株価の変動によるリスクを抑えて株主優待を手に入れる方法があります。
現物で株を買って、信用取引でその株を空売りすることで、株価の変動を気にせずに株主優待だけを貰う事が出来ます。
これは決算日などに株を空売りしていれば、配当金を実施している株では、配当金の相当額が差し引かれますが、株主優待に関しては何も差し引かれることがない特性を利用しています。
現物株では当然、配当金と株主優待が貰えますので、配当金は空売りと相殺したとしても、株主優待は丸々貰えるという裏技です。
ただ、この場合は同じようにクロス取引を考える投資家が多いために、制度信用取引では逆日歩が発生する場合があります。そのため逆日歩のかからない一般信用取引で行うのが良いと思います。
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