本記事では制度信用取引を利用する上で知っておきたい「逆日歩(ぎゃくひぶ)」について解説します。
逆日歩は、空売りする株が不足した時に売り方が支払うコストのことで品貸料とも言います。つまり投資家が「空売りする株(品)」を「借りていること(貸)」にかかる料金です。
逆日歩(品貸料)の流れとイメージ
制度信用取引では日本証券金融が、空売りのための株式を調達し、証券会社を通じて空売りしたい投資家に貸し出されます。
しかし、信用売り残高が信用買い残高を上回る状態が続くと、日本証券金融でも株式の調達が難しくなり株不足の状態になります。
このような株不足の場合には、日本証券金融は株式の調達のために、生命保険会社や損害保険会社などの機関投資家から現物株を調達して株不足の解消に努めます。
その際には、機関投資家からの「入札」による株式の貸し出しが行われ、そのコストが逆日歩(品貸料)という形で空売りした投資家の負担となります。
ちなみに逆日歩は、売り方は支払わなければいけませんが、買い方は逆日歩を受け取ることが出来ます。
貸借倍率で逆日歩が発生しやすいかを知る
制度信用取引の「買い建て」と「売り建て」の株数の比率を貸借倍率と言います。計算式は「貸借倍率=買い建て残数(融資残高)÷売り建て残数(貸株残高)」で表されます。
例えば、
- 買い建てが10万株、売り建てが10万株あれば、貸借倍率は1倍
- 買い建てが10万株、売り建てが5万株だと、貸借倍率は2倍
- 買い建てが10万株、売り建てが20万株だと、貸借倍率は0.5倍
になります。
貸借倍率が1倍よりも低いほど、制度信用取引の買い建てよりも、売り建て(空売り)が多い状態となり、逆日歩が発生しやすい状況になります。
逆日歩の確認方法
逆日歩が発生している銘柄は、日本証券金融のサイト内の「貸借取引情報」から確認することが出来ます。
サイトの左上の「検索ボックス」から特定の銘柄の前日分までの逆日歩が、右下の「品貸料一覧」から逆日歩が発生している銘柄の一覧をチェックすることができます。
※先ほど説明した貸借倍率を計るための、融資残高と貸株残高の情報も、日本証券金融の貸借取引情報から知ることが出来ます。(品貸料率一覧の下にあるファイル)
逆日歩の計算方法
逆日歩は理屈はそれほど難しくありませんが、個人投資家にとって複雑なのは、逆日歩の計算方法ではないでしょうか。ここからは逆日歩(品貸料)の計算方法について解説します。
1日当たりにかかる逆日歩の計算式は原則として以下のようになっています。
1株あたりの品貸料×品貸日数×信用売り株数=発生する逆日歩
例えば、
- 品貸料:0.05円
- 品貸日数:1日
- 信用売り株数:1000株
とした場合には、「0.05円×1日×1000株=50円」の品貸料がかかります。
また、逆日歩の計算には以下のルールがあります。
- 品貸日数は約定日ではなく受渡日で計算する
- 1株あたりの品貸料の金額は日々変わる
- 株不足が解消しないと最高料率が上昇する
これらを踏まえた上で、詳しく解説していきましょう。
下の表は、1週間の品貸料率の例です。
項目 | 金曜日 | 木曜日 | 水曜日 | 火曜日 | 月曜日 |
---|---|---|---|---|---|
品貸料(円) | 0.05 | 0.05 | 43.2 | 0.05 | 0.05 |
品貸日数 | 1 | 1 | 3 | 1 | 1 |
貸借値段(円) | 773 | 775 | 821 | 856 | 864 |
最高料率(円) | 3.2 | 3.2 | 14.4 | 3.6 | 3.6 |
※「逆日歩=品貸料率」は1株あたり
品貸日数は約定日ではなく受渡日で計算する
上の表でもわかるように、品貸日数は曜日によって違います。なぜか水曜日の品貸日数は3日となっていることがわかります。
品貸料が水曜日に3日分発生するのは、品貸日数が約定日ではなく受渡日で計算されるからです。
- 約定日・・株の注文が約定した日(売買が成立した当日)
- 受渡日・・株主の名義変更日(売買が成立した日の2営業日後)
つまり、水曜日に約定した株の場合、実質的に株主となるのは2営業日後の金曜日です。
ですから、水曜日に株を空売りしたとすれば、株式の受渡しが行われる2営業日後の金曜日が、株を空売りした初日になります。
そして、金曜日に空売りした株を大引けまで保有していたとすれば、翌営業日は土日を挟んで3日目の月曜日ですね。
そのため、祝日がない水曜日に株を空売りして大引けを迎えた場合には、金曜・土曜・日曜の3営業日分の逆日歩がかかる計算になります。
大型連休前には品貸日に注意
祝日のない普通の土日を挟むだけで、品貸料は3日分になります。
GWや年末年始の株式市場の大型連休の直前には、品貸料が6日分以上になることも珍しくありません。ですから、大型連休前に取引する時には、貸借倍率などから逆日歩が付く可能性がある銘柄は空売りしないように注意しましょう。
1株あたりの品貸料の金額は日々変わる
また品貸料は、日々、入札されるために、毎日違う場合があります。
例えば、1日の逆日歩0.05円だった銘柄が、翌日さらに株不足に陥っていたとすれば0.1円になる場合もあります。
ちなみに上の表では
- 月曜日:0.05円
- 火曜日:0.05円
- 水曜日:43.2円(14.3×3日分)
- 木曜日:0.05円
- 金曜日:0.05円
となっていますが、水曜日は1日あたり最高料率である14.3円の品貸料が適用され、受渡日の関係で3営業日分になり「1株あたり43.2円」の品貸料が生じることになっています。
株価821円に対して43.2円の逆日歩がつくことになるので、空売りしていたとすれば、それだけで5%近い損失です。
株不足が解消しないと最高料率が上昇する
逆日歩には上限が設定されているために、通常では株価に対して高額な品貸料がつく可能性は低いでしょう。
逆日歩の上限を「最高料率」といい、最高料率は売買単位と貸借値段によって変わります。最高料率は日本証券金融のサイト内の「株式 最高料率早見表(1日・1株当たり)」で確認することができます。
ただ、逆日歩が発生しても株不足が解消しない日が続くと、最高料率は2~10倍に拡大する場合があります。ちなみに10倍が適用されるのは「極めて異常な貸株超過状態が生じている銘柄」などの場合です。
上の表では水曜日に最高料率が跳ね上がった上に、品貸日数も3日分になるタイミングの悪い1日だったと言えます。
最高料率が上がる理由
最高料率を上げることで、過剰な空売りを抑制する狙いがあります。
空売りは逆日歩を常に意識しよう
空売りを普通の売買のように行っていると、時には高額な逆日歩を支払う可能性があります。私自身も過去に空売りして、高額な逆日歩を払うことになった経験があります。
そのため、空売りをするなら次の項目に注意して取引することをオススメします。
- 逆日歩が発生しているか
- 品貸日数は何日か
- 貸借倍率が低すぎないか
- 貸株残が増加していないか